シルク・ドゥ・ソレイユ(ディズニーランド)

 舞浜駅を降りると異界だった。迷路のような通りを抜け、広場に出ると、そこにシルク・ドゥ・ソレイユの常設劇場があった。場内に一歩足を踏み入れると広大な客席に驚くが、円形舞台の上に設置された球形の物体と湾曲した四層の巨大な背景にも目を奪われる。「天体観測儀」を模した装置というが、一瞬プラネタリウムにいるかのような感覚にとらわれる。これから「宇宙のスペクタクル」が始まることを予感させる。
 開演十分前客席に赤鼻のクラウンが二人登場し、リラックスした雰囲気を漂わせる。やがて舞台に白ずくめの道化が出てくる。ここに「赤面」と「白塗り」の伝統的クラウンの存在を発見出来る。タイトルの「Zed(ゼッド)」とはこの「白の道化」のこと。タロットカードではZはゼロに通じ、「愚者=道化」を意味する。このZがカードの人物の間を遍歴するという設定になっている。F・ジラール演出の舞台ではタロットのイマーゴ・ムンディ(世界像)がヴィジュアル化される。
 タロットのシンボリズムがわからぬくてもショーは充分楽しめる。冒頭を飾るのは「空中ロープ」だ。天井の球体からおりてくるカラフルな布を体に巻きつけた二人の美しい女性が空中を自在に飛び回る。その後ジャグリング、トランポリング、「人間ピラミッド」、ハイワイヤー、アクロバットなどで肉体は次々と多彩な超絶技巧を披露する。これには観客も興奮し、叫び声さえあげる。演目はすべてショー・アップされているので、定番でありながら新鮮に映る。圧巻は「空中ブランコ」だ。鳥人たちの大空を舞う姿に陶酔するが、それ以上に驚いたのはメカニズムだ。大きな網の準備は人力にたより、時間もかかるが、ここでは瞬時のうちに機械が網を張り、スピーディーな舞台転換を可能にする。「精巧な機械の中で発揮される身体性」、これこそ他を寄せつけない「シルク・ドゥ・ソレイユ」の魅力だろう。生バンドの演奏も迫真力を添える。