ジンガロ

 バルタバスの主宰するカンパニー「ジンガロ」とは、イタリア語でロマ民族を意味するが、今は亡き彼の愛馬の名でもある。「ジンガロ」は常に異質な文化を作品の主題とし、西欧中心主義を打破してきた。前回の来日公演ではチベット文化ととりくんだ「ルンダ」だったが、今回はロマの声が聞こえるルーマニアをとりあげている。
 タイトルの「バトゥータ」とはモルドヴァ地方の民族舞踊で、男女がペアで足を踏み鳴らして踊るダンスである。そのモルドヴァからきたブラスバンドトランシルヴァニア地方からきたストリングス(弦楽器の奏者たち)が円形の馬場をはさんで向かい合う。片方がリズムを刻み、もう一方は叙情性を歌いあげ、交互にロマ音楽を演奏する。  「バトゥータ」は民族舞踊をこえるルーマニア文化の象徴として用いられている。
 さてリングでは何十頭もの馬が疾駆する。アーティストは馬と伴走し、飛び乗っては,馬上でアクロバットを演じる。スピーディーで、スリリングな曲馬ショーが展開する。アリーナには興奮の渦がまきおこる。まさに「ほとばしる生命の奔流」を見る思いがする。    
 「ジンガロ」は二十年前に創立されたが、その時にはただ「馬のオペラ」と呼ばれた作品は以後地平を広げ、壮大な劇的世界を描き出してきた。
 本公演をバルタバスは「原点回帰」と評する。「ジンガロ」の旅はいま「里帰り」し、祖形を表現する。通俗性の故か彼は「サーカス」の語を嫌うが、あえてそれを使えば、曲馬は原点だった。美しい衣装に身をつつんだ女性騎手は馬上で曲技を見せ、道化は馬に乗り損ない、笑わせる。この場面はすべて「バトゥータ」にはそろっている。今回バルタバスは馬を操る神技を披露するより、曲馬を中心とするエンターテインメントの構成に心血をそそいだ。